ひきこもりの物語ではなく、私たちの物語。猫田佐文『ひきこもりを家から出す方法』

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本の表紙

 この小説は集英社オレンジ文庫によるノベル大賞で大賞を受賞し、文庫化された本です。
 たぶん、著者の猫田さんはこの小説が処女作だと思います。

 タイトルをみてひきこもり?そんな話おもしろいの?と疑問に思うかもしれませんが、
この小説は私たちの物語です。必ず、このお話のどこかに似ている立場の人を見つけられるはずです。

 文章や構成の巧拙はとりあえず抜きにして、心がしもやけで暖かくもむずむずとするような、素敵な本でした。

もくじ

  1. あらすじ
  2. 感想・ひきこもりは私たちとそんなに遠くない存在である
  3. さいごに


1、あらすじ

 舞台はとあるミドルクラスの家庭。都市郊外にある一軒家。

 主人公は24歳の男、影山俊治。
中学生の時に女子から陰口を叩かれるいじめを受けて以来10年間、家にひきこもっている。

 同居する両親は俊治の扱いに手をこまねいている一方、定年が近づき病気や介護、収入減の問題がつきまとっていた。

 このままでは俊治もろとも、共倒れになりかねない。
そこで影山家にひきこもり支援を行うメイドを家に1年間雇うことにした。

 メイドの名前は綾瀬クリス。18歳。若くて可愛いメイドさんだ。

 クリスは俊治とのコミュニケーションや親と俊治の仲介役を担い、俊治が家から出られるように支援していく…


2、感想・ひきこもりは私たちとそんなに遠くない存在である

 若くて可愛いメイドさんが青年の所に急にやってきてひきこもり支援だなんてラノベっぽい雰囲気が出てますね。
冒頭が俊治がネットゲームやってる場面から始まるのもあって、なんかラノベっぽい。

 けど、しばらく読んでみると真剣な本だとすぐにわかります。
本の末尾に参考文献として『ひきこもり救出マニュアル』『ドキュメント・長期ひきこもりの現場から』などの本が挙げられている通り、非常にリアルで現実的な本です。

軽く登場人物の紹介をするので、ネタバレを一切許さん!という人は見ないでくださいね。

 ひきこもりの俊治を中心にいろんな人が出てきます。
俊治に一定の理解を示し、なんとかコミュニケーションを取ろうとする母。

俊治を心の奥では心配しつつも、軟弱だと非難し、不満を募らせるばかりの父。
父は会社で役員を務め、業績もある社会的地位の高いサラリーマン。

若く、慈悲深く俊治に接するも、実は暗い過去を持つメイド、クリス。

中学生の時、何気ない陰口で俊治を不登校にしたグループのリーダー格だった、佐藤さん。

俊治と同じひきこもりだが、パートナーのDVで浮き沈みがある少女、綾。

 他にも登場人物はいますが、読者はこの中の誰かの境遇と必ず重なると思うんです。もしかすると複数人の境遇と重なるかもしれません。
 そういう意味でぼくは『私たちの物語』と評しています。

ということはつまり、ひきこもりは私たちと遠くない存在であるとも言えますね。
この物語はひきこもりを中心に回っていますから。

この小説の優れている所は、俊治の心情をつぶさに描いている所です。
クリスの支援を通して、再び人とのつながりを得て、再生していきますが、
その過程は綱を渡るようにゆっくり、慎重なものです。

だからこそ、ひきこもりの心情は誰にでも感じ得るもので、全然特別なものじゃないんだな、と思わせてくれます。

 たとえば、ちょっと人と会いたくないな、とか、この人苦手だな、って思うことは誰にでもありますよね。
ひきこもりの心情はそれの延長線上にあるんです。

 このように、ひきこもりを社会から外れた悪として描くのではなく、普通の人間として、そして社会的包摂の対象として描いているのが素敵な小説です。

ぼく個人の体験をすこしお話しさせてもらうと、
ぼくは人とのつながりを結ぶのが数年前からすごく苦手になっていました。
結果的に家にいるのが大好き人間になっているわけですが(今もね)、

その原因の一つは自分が傷つくことを過剰に恐れている節があるみたいなんです。
まあ人間関係的にちょっとうまくいかないことがありまして、

→人付き合いに苦手意識を持つ
→人とか関わりたくなくなる
→人付き合いが苦手になる
→人付き合いにさらに苦手意識をもつ(以下繰り返し)

っていう状態になっていたような気がします。でも1人ぼっちって、寂しい…

でもこんなことって、誰しも起こり得る体験じゃないですか?

こんなふうに、「ひきこもり」までいかなくても、
ちょっとした生きづらさを感じている人って多いと思います。
そんな人にとってはすごく刺さる話だと思います。

 また、人とかかわってみようかな。
もう一度、頑張ってみようかな。って思わせてくれました。

だから僕にとってこの小説は、ひとつのターニングポイントになるような気がしています。今後、何度か読み直すことになるでしょう。

 本の文章的な話をすると、確かに改善されるべき点はあると思います。
そもそもメイドさんが青年の所に来るっていう話は賛否両論でしょうし、
話の前半と後半で、だいぶ毛色が違うな、と感じましたし。
(詳しくは是非本を読んでくださいね)

 でも、それを差し引いても、ぼくにとってはとても大切な本です。



3、さいごに

 この本、本屋をぶらぶらしてたらたまたま目に入って即買いし、その日のうちに全部読み切りました。

 偶然の出会いっていいなーって感じですね。
本屋さんがどんどん最近潰れてますから、是非生き残ってほしいものです。

 この記事を読んでくださった方も、
『ひきこもりを家から出す方法』読んでみてはどうでしょうか。
文庫本なんで600円ちょいですし。

それではー、adios.



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